2019/02/26

『饅頭伝来記』司馬遼太郎短篇全集一

 饅頭伝来記

名品。臨済宗の竜山和尚の弟子、浄因は饅頭を作ることだけが取り柄。浄因は捨て子で、竜山に育てられるのだが、その竜山の愛情が嫌になり、女犯におよび子を孕ませる。竜山は浄因をつれ日本への帰国を決意する。日本に来てから浄因はやることもないので子供に饅頭をつくってやってたら話題になり、時の帝の耳にもいき、帝から妻を娶るようにすすめられる。そんなこんなで月日が流れ、竜山の死をきっかけに姿を消してしまう。
おもしろかったなあ。浄因が子供たちに饅頭をはじめて食べさせたところで。子供たちのセリフが
「おっそろしく、甘え」
ここが、この小説のカタルシス。そして、浄因の女房が夫の無知を嘆くところで
「あなたは唐土の人と聞いたから、さぞ高い教養をお持ちだろうと思ったのに、ただの職人ではありませんか」
と吐かせ舌打ちをしたとするところは愉快だった。内容自体は愉快ではないのだが、文章のリズムで、どうも面白可笑しく書いているんじゃないかと思ってしまう。たぶん笑いを誘うためにこんなセリフを入れたと思うが。
竜山の人物描写もすばらしくて、まさに僕らが思い浮かべる禅僧を描いている。煩悩に負けて浄因を育てる心境や、浄因の子を孕んでいる娘には悪いと知りながら自分の都合で浄因を日本に連れて行くとするところ、ちょっとした記述から禅僧としての竜山の人となりがでてくる。冒頭の竜山が、虚石和尚の腕から浄因をひったっくて走っていくところもいい。禅僧が走るというのはなかなかおもしろい。
「あっはっはっはっはっ。わかっておって、なぜ拾った。なぜ叩き殺さぬ。竜山っ、助平! あっはっはっはっ」
煩悩をもつ人間を肯定的に描写している。そんな人間のおかしみがなす短篇だった。

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