2019/02/11

『わが生涯は夜光貝の光と共に』司馬遼太郎短篇全集一

『わが生涯は夜光貝の光と共に』(1950年)

螺鈿に魅せられた蒼洋は、師の月樵のもとを去り、失われた螺鈿の技術を習得していく。芸と渾然一体となった蒼洋が晩年自分が作った作品を修理する旅にでる。
「時々道ばたで杖を止めて背をのばした。
過ぎて来た道をふりかえると、山々の鮮やかなみどりが彼の網膜を染めた」(p25)
蒼洋、この人物は実在するのかどうか、僕は分からない。モデルはいたのかもしれない。この小説を貫くみずみずしさとすがすがしさは司馬遼太郎全作品に共通するもので、司馬はえてして英雄ばかり描いてきたように誤解されているが、まあ実際そういうところもあるのだけど、彼が向ける市井の人々へのまなざしは、愛情と共感にあふれている。
短い小説だが、一読、まるで蒼洋の人生を全て見てしまったかのような、そんな錯覚をしてしまう。やはり司馬は文章がうまい。

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