2019/11/20

『イスラームから見た「世界史」』タミム・アンサーリー/小沢千重子訳 紀伊國屋書店

イスラームからみた世界史かあ、と期待していたけれど、さほど新しい知見を得ることはない。
イスラーム哲学、科学が中世ヨーロッパに輸入されていくことは周知の事実であるし、ムハンマドからはじまる王朝の歴史なんかも、このあたりの歴史に興味があって、何冊か読んだことがある人にとっては「別に」といった感じで、新鮮さはない。
ただし、記述も平易だし、非常に整理されているので、イスラームの歴史を俯瞰してみるにはいいと思う。書名が「イスラーム史入門」みたいなのであれば、かなりおすすめできる。もっと言って読むべきだとも思う。
でも書名から連想して、ワクワクして読んだ身としては、肩透かしではあったわけです。

もう一点、問題と言えば、著者がいう「イスラーム」とはなんだろうか。
「イスラーム」といっても、イスラームは多様な世界をもっている。インドネシア、マレーシアもイスラームなんだ。
もちろん北アフリカのイスラーム、中央アジアのイスラーム、回族など多種多様なわけで、「イスラームからみた」といっても、それって傲慢でしょ、結局は著者が乗り越えたいと考えているヨーロッパを中心にした歴史観とあんまり変わらない。
現在、日本語で書かれている歴史書で、偏った西洋中心主義の内容のものは、ほとんどないと思う。
というか、そもそもそんな西洋中心主義的なものを、日本の歴史学、哲学、科学、あらゆる分野では超克したり、違ったアプローチをしてきた。それは明治の時代からそうなのだ。
たしかに、凝り固まってしまっている歴史観なりは知らず知らずあるだろうが、本書がそれをほぐしてくれるとは残念ながら言い難い。

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