2020/01/08

『カラマーゾフの兄弟』ドストエフスキー/原卓也訳 新潮文庫

やはりかなりわけわからない小説で、一人語りが激しく、しかも感情の起伏がすさまじい。
ドストエフスキーの文学を読むと、文学とは語りえないものを語れる形式なんだと心から思うもので、変に要約したりすると肩透かしくらうくらいどうでもいい話なんだけど、それをくどくどと書くことで、怨念のようなものが憑りついていく。
いろいろとこの小説では考えさせることがあるのだけれど、ひとつは人間が人間を分析することの高慢さへの批判だろう。この小説には、いっさいの精神分析や心理学の見方を寄せつけないものがある。
この小説はやはり「家族」がメインテーマなのだろう。
そして、バラバラのカラマーゾフ親子が財産のことでもめ、女のことでもめ、親殺しで裁判にかけられる。ドミートリーは有罪、イワンは病に倒れ死の床、アリョーシャの旅立ち。ヒョードルの死によってカラマーゾフ家はバラバラになる。
そしてイリューシャの死によってもたらされるスネギリョフ家の和解とアリョーシャやコーリャたちの絆がラストを飾る。

「いいですか、これからの人生にとって、何かすばらしい思い出、それも子供の頃、親の家にいるころに作られたすばらしい思い出以上に、尊く、力強く、健康で、ためになるものは何一つないのです。君たちは教育に関していろいろ話してもらうでしょうが、少年時代から大切に保たれた、何かそういう美しい神聖な思い出こそ、おそらく、最良の教育にほかならないのです。そういう思い出をたくさん集めて人生を作りあげるなら、その人はその後一生、救われるでしょう。そして、たった一つしかすばらしい思い出が残らなかったとしても、それがいつの日か僕達の救いに役立ちうるのです。」(下、653)

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