2021/04/21

『風と共に去りぬ』第2巻 マーガレット・ミッチェル/鴻巣友季子訳 新潮文庫

南北戦争勃発とアトランタの荒廃、そして南部の敗北。
かなーりおもしろい。スカーレットの自己中心さが暗い話に花を添える。
本書では南部の武器の貧しさが書かている。北部では最新式のライフル銃なのにもかかわらず、南部ではマスケット銃だったり。バトラー曰く、南部には戦争するにも武器は綿花と傲慢さしかないとか(16)、ひどい言われよう。医療品もなく、軍需物資もない。食料は先細りしていき、アトランタでの生活も日増しに悪化していく。

スカーレットはメアリーに内緒でアシュリーの手紙を読むが、興味があるのはアシュリーが事細かに書いてくる戦争の状況や戦争のバカさ加減ではなく、あくまでもアシュリーのメアリーへの愛の言葉だとかそんなことばっかり。
しかも戦争がまだアトランタから遠いときは、スカーレットはその状況を歓迎し楽しんでいた。戦争は人を享楽的にするし平時のような礼儀作法もすっとばすものがあるようだ。看護しながらスカーレットは傷病兵に色目を使う。

レットは完璧なまでにリアリストで、ミード医師との言い争いでは、

「戦争というのはいずれも神聖なものでしょう。戦いに出される人々にとってもは。もし戦争を始めた人たちが神聖化しなければ、どこの馬鹿がわざわざ戦いにいきます? しかしながら、闘う阿呆たちに演説屋がどんな掛け声をかけようと、戦争にどんな気高い目的を付与しようと、戦争をする理由はひとつしかありません。それは、金です。」(55)

んーこのあたりもこの小説が単純な戦争ロマンティシズムを描いているわけではないがよくわかる。
本書が出版されたのが1936年、まだまだイギリス、フランスがドイツに宣戦布告するまであと三年、日本の真珠湾攻撃までまだ五年ある。アメリカにおける戦争忌避がけっこう率直に書かれているのかもしれない。
メアリーなんかもバトラーの味方をする。アシュリーが不毛な戦争だと言っていたことなんかを述べたりする。メアリーは大義だとかを信じている割には、こんなことを言う。なかなか複雑な人間のようだ。
アシュリーもバトラーも良識があるが、違いはバトラーはリアリストであるが、アシュリーは現実に苦悩するタイプであることだ。

バトラーの台詞がいい。スカーレットが帽子の代金を少しばかりだそうとすると、
「頂いたところで、どぶに捨ているようなものですよ。あなたの魂のためを思えば、そのぶんの丘ねでミサをしてもらってはいかがです。あなたの魂は何度かミサの必要があるんじゃないかな」(85)
スカーレットは、バトラーの言葉にいちいち魅力を感じ、反発を感じる。でも最終的にはキスしちゃう。
「愛人ですって! 愛人なんて、子どもをぞろぞろ生んでおしまいじゃないの!」(291)
ひどい。スカーレットの子供に対する態度はひどい。ウェイドにも愛情を感じていないし、むしろメラニーが子供を生んだときに抱きながら、アシュリーの子供ということで自分の子供だったらよかったのにとまで思ってしまう。

アシュリーのつかの間の帰還のとき、スカーレットは再び愛の告白をする。アシュリーは節度を守る範囲でスカーレットの愛を受けとめる。

戦争は日増しに悪化していき、スカーレットの幼馴染たちも死んでいく。すでにあの頃には戻れないような状況になっている。老兵たちまでもが駆り出され、死んでいく。
アトランタ脱出のとき、ようやくプリシーが活躍する。プリシーがなかなかな狂言回しでいい。スカーレットに急かされなきゃ、のろのろと動くし、基本的にやる気がない感じ。
バトラーは老いた馬をくすねてきて、それでスカーレット、メラニー、メラニーの赤ん坊にウェイド、そしてプリシーをのせて逃げようとする。途中、少年兵がふらふらと崩れ落ち、その少年を他の兵が肩で担ぎ上げて歩き出そうとすると、少年はおろせと怒りだす。その光景をみてバトラーは変わる。スカーレットたちをタラへ連れて返すつもりだったが、軍に入隊するといってスカーレットに後は任せて去ってしまう。
アトランタでまだ平和だったとき、北西の方角にあらわれた黒雲はみるみる大きくなって強い嵐となり、スカーレットの世界をなぎ倒し、彼女の生活を吹き飛ばした。
「〈タラ〉は無事だろうか? それとも、ジョージアを席捲した風と共に去ったのだろうか?」(414)
「風と共に去りぬ」のタイトルは19世紀のイギリス詩人アーネスト・ダウスンの詩「シナラ」からとられているという。

スカーレットはなんとかタラに着く。そして母が死に、父は憔悴して、妹たちは腸チフス、奴隷はマミーとディルシー、ポーク以外みんな逃げた。
スカーレットはなんだかんだで責任感があり、アシュリーとの約束は守るし、タラに残されている家族や奴隷たちを背負うことを決心する。
「子どもとして大切にしてもらえるのも、今夜が最後になるだろう。スカーレットは大人の女になった。青春時代はもうおしまいだ。ええ、そうよ、父方の親族にも母方の存続にも頼るわけにはいかない。頼るものすか。オハラ家の人間は他人の情けを受けたりしない。オア原家の人間は自律して生きていく。自分の重荷は自分で背負う。」(466)
ジェラルドはスカーレットにかつて言ったように、スカーレットは赤土の土地タラで生まれ、養分を吸い上げ、留まるのが運命となった。

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