2020/09/16

『大分断――格差と停滞を生んだ「現状満足階級」の実像』 タイラー・コーエン 渡辺靖(解説) 池村千秋訳 NTT出版

なんか日本の状況を語っているのかと勘違いするぐらい。
現状満足階級が増えていき、イノベーションが起きにくく、流動性も低くなる。そして低成長社会へとなっていく。
人が移住をしなくなってしまったこと、転職しなくなったなどなど、まあ日本でも同じ傾向というか日本の方がひどい状況にあるような気がしていますが、どちらにせよ、この現状満足型は欧米日本の先進国では一般的傾向にある。
コーエンはそんな状況で日本をある程度うまくやっている国として、皮肉なのか、評価しているが、解説を書いている渡辺氏も言うように、だからって現状に満足していていいわけがない。僕らはけっこう政治や経済にあきらめムードがあって、もっとよい社会をつくろうとか、よくしていこうという気概が薄い。先進国では社会的な高齢化が進んで、成熟社会にいたり始めているようだ。
マッチングが僕らの生活の質を向上してくれているのは確かだし、でもそれがディストピアに見えなくもない。未来の評価というのは難しいもので、音楽に関していえば、レコードが登場した時、録音技術が音楽文化を崩壊させるという論調はふつーにあったし、チェリビダッケは音楽を体験として位置付けていたから、再生技術を嫌っていた。時が変わって、今ではCDでは本物を音ではないとか、MP3では音楽体験が希薄だとか言われ、レコード再発見がなされている。まあ僕もレコード至上主義者だけどね。
コーエン氏が言うことは、ある種の自分の生きた時代のノスタルジーではある。僕はそれを否定しないし、むしろ僕も携帯がない時代やネットフリックスがない時代を懐かしく思う。だってこれらがなかった時の方が、物や知識への執着が強いように思える。もっと活動的だったと思うんだよね。これは単なるノスタルジーでしかないと思うけども。
それに僕は地元に居続けている同級生を馬鹿にもしている。なぜ都会にでてこない、なぜ地元でぬくぬくと週末はショッピングモールに行って、ウインドウショッピングして、はたまたなんちゃってキャンプをして、そんなのが楽しいのかと。
でも、このなんとなく安定した社会は素晴らしいものでもある。不安定な時代にみんなが望んでいたことでもある。まだまだ道半ばだが、マルクスのいうように資本主義のあとは共産主義がくるのではないかと思える。そういう意味でも、このフラットな社会をコーエン氏は本能的に嫌っているのかもしれない。
コーエン氏は歴史は循環すると言うが、まあ循環するというよりも安定した社会というのは未来永劫続かないってだけでしょう。この日本も斜陽と言われながらも、安定した社会を維持してきている。かつて焼け野原になったように社会はいつだって崩壊する機会がある。
言わんとしていることはよくわかる。でもどこか呑み屋での若者への叱責にしか聞こえなくもない。

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