2020/06/15

『女帝 小池百合子』 石井妙子 文藝春秋

ぼくは前回の都知事選では小池百合子に票を入れた。増田寛也とかなり迷った。で、どうして小池にしたかと言えば、やはり地方自治体の政治ってのは国政よりも注目度が低いなかで、「ドン」だとかいっぱいいて云々というので、まあ小池が一番だろうと、増田では改革はないだろうと、まあそう考えた。けど蓋を開けてみたら、都政は何か変わったのかな。ぼくはどうも小池に騙されたようです。

学歴詐称とアラビア語について
本書、全面的にはうなずけない。とくに小池百合子の留学時代を描いたところはあまり感心しない。
まずは小池のカイロ大学の卒業については、カイロ大学が卒業していると主張しているなら、もう仕方がないと思う。首席かはともかく卒業しているというなら、もう「信じる」しかない。
アラビア語については今現在アラビア語がしゃべれない事は当然だし、文語(フスハー)が稚拙だとしても正直どうでもいいこと。
同時通訳を本当にしていたのか、など経歴詐称をしている可能性もあるけど、たしかに大きな問題だとは思うが、本書がいうようにエジプト側、中東関係者と小池が「利害一致」しているならな、とことん追求していってほしいとは思うが、今のところ大きな争点にはなりにくいでしょう。

「名誉男性」小池
女を武器に男の世界でのし上がったというのは間違いないが、でもそれは男社会で構成されている政治の世界では仕方がないし、田嶋陽子さんの批判、「父の娘」だとか「女性蔑視の女性」または「内面は男性化されている」というのは、わからないでもないけど、この手の批判はあんまり有効ではないと思う。
このフェミニズムの批判は危うくって、男が女社会に溶け込もうとすれば男性性は変わるし、つまり環境によって自らのアイデンティティは変容していくってのはフツーのこと。確かなアイデンティティなんて幻想で、それは外的環境にあわせていくこともある。
それに「名誉男性」として振る舞わなければならないところに悲哀もないわけではない。

同居人の証言
留学時代については同居人の証言でほぼ出来上がっているのはかなり微妙でしょう。その証言の信憑性の裏付けがなくてもいいけど、それだけで強引に小池の人間性に方向づけするのはいただけない。
同居人の証言は断片しか本書にはないが、拾って読むと、同居人の小池への同情というか共感もないわけではないような感じもする。
それに小池が留学時代に遊びばかりしていた、というのこれが本当でも別段いいでしょう。留学したら羽目をはずしたいし。勉強ばかりするのも、遊びをするのも、嗚呼青春ですよ。

本書における小池観
全面的にこの著作の記述が本当であるとすれば、小池百合子はすげー人物であることは否定できない。本書での小池の人生観にはまったく同意はしませんが。
確固たるビジョンと政策をもって一国の主を目指す人がどれだけいるのかどうか。信念をもって政治家をやっている人もいるだろうが。
それに、そのような上昇志向自体は否定できないものだし、たまたま政治家という職業を選んだにすぎないところもあるし、そういう人が選挙で勝ってしまってよくないというなら、それは選挙民のせいでしょう。だって民主主義なんだから。
小池が、細田、小沢、小泉と渡り歩いてきたのだって、政治家としてどうかとは思うが,
世渡り上手だと関心こそすれ非難しようとは思わない。
土井たか子や野田聖子ら女性議員への敵視もそりゃべつにいいでしょうよ。ぼくだって世渡りしている人間なので、ある程度共感しますよ。

政治家としての小池
ただし政界進出からの記述については、これから都知事選があることもあり、読んでおくべき箇所である。
水俣病のこと、アスベストのこと、普天間基地のこと、豊洲のこと、これらすべてについて小池は何もしていないどころか、停滞させ混乱させ、解決困難な状況にしている。
小池が政治家としてなしたことは、クールビズとか受動喫煙防止とかくだらない政策だけなのかもしれない。
今回のコロナ騒動でも小池は醜悪だった。「ロックダウン」という言葉を使い、メディアに餌をまきやがった。マスメディアのバカっぷりは今始まったことではないが、あまりに扇動的な報道に嫌気がさす。小池はメディアの使い方を知っている。まさに日本のゲッペルスだと思う。
コロナの状況は豊洲のときも同じだ。騒ぎまくって、結局なにも残らなかった。
動物殺処分ゼロにしろ、これは絶対に嘘だし、統計方法や基準や概念を変えれば簡単にゼロは達成できる。
電柱ゼロだって、別に小池独自の政策でもなく東京では約30年にわたって行われてきた事業なわけで。んで、小池になって何か変化がおきたのか。
いろいろな政党を渡り歩いきたというのは、やはり人間として信用できるかどうか難しい。政党というのは会社とは違って自らの信念を投影するものだし、転職とはわけが違う。これだけでも政策を実行するよりも、名を売る方に重点を置いている感じは否めない。

本書を読み、小池は事を実現するにあたって組織を動かすということを知らないのかもしれない、もしくは関心がない。
ぼくはしがない会社員だが、計画を実現させるにあたっていかに組織を動かしていかなければならないかはある程度はわかっている。口で活きのいいことを言えば物事が動くわけではない。
協議し、悪口を言われ、オペレーション基準を作成し、そして悪口を言われ、妥協し、仲間からは日和見主義と陰口を叩かれ、どうにかこうにか組織を動かし、動きを監視し注意し、そして悪口を言われ、何とかプロジェクトが終わってから、なんとなく評価される。
ぼくは民間だから法的な障害はないし、公正さも重要ではないのでまだやりやすいが、都政となれば配慮すべきところや事務手続きはかなり多いものと想像できる。
小池はこの「地道さ」や「地味さ」をすっとばしている。
ビジョンを語ること自体は悪くないが、それを政策や計画に落とし込んでいく作業がなければ、実効性がない。そういう面からすれば、小池はアウト。
政治はビジネス同様に結果責任で考えるべきであり、生き生きとした言葉を連ねる政治家は信用できない。

総評
んで、この本の評価は、中の中。小池の取り巻きについても記述が少ないし詰めが甘い。秘書の水島明宏や野田数だとか、トンデモな人物が取り巻いているということしか言ってないような感じだし。
とにかく内容はおもしろいが絶賛できるほどではない。小池像があまりに単純だし、あまりにこの単純な小池像に沿った話でまとまりが良すぎる。
人間は矛盾の塊なのだから、こういった一貫性をもった人物像はありえないし、描き方、追求が薄っぺらい。
とはいいつつ、小池が何をやってきたのか、平成史としてはおもしろかったでございます。

蛇足
現在では小池が再選確実と見なされているが、本当にそうなのかな。小野泰輔氏や宇都宮健児氏が都知事選でどれだけ伸びてくるか。けっこう反小池はいるはずなんだが、選挙で世論がどうなっているのかわかるから愉しみだな。
トリビアで「トルコ風呂」を「ソープランド」に変えたことに一枚噛んでいたとは。

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