菅直人政権のブレーンにして、消費税増税の提案者である小野先生ということで批判的だったけど、安倍政権に変わり早7年が経ち、なんだか経済は良くなったとかいうこともなくはないが、かといって失われた20年は30年になり、なんだかなーといった感じ。
かれこれ十年ぐらいい前に、小野先生の著作『金融』(岩波書店)、『貨幣経済の動学理論――ケインズの復権』(東京大学出版会)を読んでいるが、あんまり覚えていなかったけど、今回『消費低迷と日本経済』を読み、記憶が蘇ってきた。
小野先生の考えは、つまり消費がある基準を下回る状況、需要が非常に低いときには、金融緩和してインフレを期待させても消費は上がらず、消費者は消費をせず資産を増やそうとする、そしてデフレになるというもの。
デフレ下では貨幣へのフェティシズムが発生するし、企業は効率化や生産性向上を目指し物価は安くなる傾向があり、さらにその影響で雇用環境や失業者が増加していって、さらにデフレ、とスパイラルに陥る。
生産性と効率化とは言うけれど……
ずいぶん前から日本の生産性の低さが問題になっているが、それに対する解決策がIT化というのだから、バカバカしいとは思っていた。よくFAXがやり玉に挙げられるが、FAXを使用することで生産性が落ちるとか意味がわからない。そもそもの問題の本質はそこではないだろう。
生産性の低さ、というのは本質的には賃金の安さからくる。単純にいえば給料を上げれば生産性は向上する。
たしかにこれまで日本の企業が作り上げてきた構造が、韓国や中国など新しい構造に負けることはある。これらの国では一週間でできることが日本では一か月以上かかるとかね。かなーり深刻でぼく自身も、融通のきかなさには辟易するわけですが。
だから、ここで問題なる生産性というのは労働者が、1時間で生み出せる価値の問題であって、給料を上げてやれば必然的に価値が上昇するから生産性があがるけども、給料を上げるためには売り上げが欲しいから一か月かけないで一週間で仕上げられるように効率化が必要になる。
だけど、ぼくが仕事をし始めてから20年近くになるが、正直かなり巷で言う「効率化」は進んだ。メールもいまじゃデフォルトで使うし、外回りしていても携帯でやり取り出来て超便利。
製造工程、生産管理でも改善が進み、ブルーカラーの人数が減る一方です。
でも、給料は増えていない。ぼくの場合は転職で給料アップしているが、日本全体では増えちゃいない。
なんでですかねー。
供給側の話ばかりの現代
とまあ日本は苦しんでいる。成熟社会となり、洗濯機にしろテレビにしろみんな持っている状況で、消費が思うように回復しない。各企業が行っている効率化は、消費者の消費意欲を高めるものではない。もしそれによって雇用が失われるならば、逆に企業にとっては消費減退となり、さらに苦しくなり、そしてさらに効率かして……というスパイラル。
そして効率化によって、他社より安い製品ができても、需要が増大しないならば従来のパイのなかでのシェア争いになるだけで、日本経済全体にとってはプラスでもない。
だから重要なのは需要でって、供給ではない。
基本的な前提として、日本は生産能力が余っていて、単純に需要が不足してる。
税と再分配
まず、日本の資産の半分を保有する高齢者に年金という現金を渡すのではなく、クーポンに変えること。現金を貯蓄にさせないため、だけど老後も不安なく生きていけるように。
そして少子化や人口減自体は問題ないとする。むしろ人口が多ければ生産性が低くなる。これはおもいしろい指摘ですね。
配偶者控除をやめる。ぼくもこれはなぜ続けているのか疑問で、配偶者控除をしている家庭って基本的に配偶者がそれほど働かなくてもやっていける家庭ってことでし。共働きしないとダメな場合、配偶者控除は受けられないし配偶者控除を受けられない家庭のほうを税免除してあげる方がいいと思うのだけれど。いづれはこちらは撤廃の方向だとは思うけど。
んで、重要なのは女性が労働市場にでることは大賛成ですが、けど需要が伸びないなかで、企業は効率化を推し進め、結局労働市場のシェアを男女が取り合うということになっている。雇用機会がなけりゃどうしようもない。
増税して財政支出を増やす。そうして雇用を守れ、そうすれば消費は増える、ということ。
インフレターゲットへの批判
ぼく自身、インフレターゲットに期待を寄せていた。民主党政権のときから多くの人がやれやれといっていたし、安倍政権になって岩田規久男さんが日本銀行副総裁になったりでとっても期待しておりました。
最初はどこからインフレターゲットを聞いたのか。クルーグマンからだと思うから山形浩生あたりかな。高橋洋一かな。
大胆な金融緩和が効果がるのは、お金の増大が物の購入に結びつくときで、日本の場合は消費に回らず蓄財となってしまった。株価は上がったが、資産が増えても消費が増えないから給料が上がらない。
インフレ誘導は、一時的な景気後退の際には使える。でも長期低迷している日本では使えない。
増税という選択
んで、ここからが小野さんがなぜ増税へと行くかがわかる。小野さんは、日本が長期の不況にあり、需要が著しく低い。そのとき需要を回復させるには財政出動を必要とする。で、その原資をとるために増税を唱えるわけだ。そしてこの消費意欲が低い状況で、消費税を数パーセント上げたところで、一時的な買い控えはあるにせよ、長期的には影響がない。
これね、ぼくもそうかもなぁと最近では思う。
ぼくは経済学の理論的なことはわからないのだけれど、消費税増税で景気が悪くなるってのは、たしかに2%上げれば、本来市場でこの2%分は流れていたお金の流れがなくなるのだけれど、小野さんがいうように財政出動すればいいし、それに2%の増税で消費意欲は減退するのはするけど、そもそもお金を使おうとしない今日この頃、どれほど影響があるのでしょうね。
現在、NISAとかiDeCoだとか少しづつ広まっているが、この動きもどうなんでしょうね。
所得税を減額されるというメリットがあるけど、でもさ、払えよ所得税。小野さんも言うように公共サービスは無料ではない。よいサービスを受けるためにはそれなりの出費が必要なんだし。
それにだよ、資産を増やすっていうのも、ぼくの哲学からしても受け入れられない。小野さんが言うように、これは「貨幣へのフェティシズム」でしかない。
また、iDeCoOだとか信じられないのが、元本は保証しないし、それに現在の株価が正常なのかどうかぼくは判断できないというのがある。株を政府が買って、株価維持をしている状況ですから。本当に政府はNISAとかiDeCoを勧めてもいいと思っているのかな。
ここ二十年、三十年という月日で、政府は株価を面倒みるつもりなのかな。それって健全なのか。
望ましい財政支出とその効果
小野さんの提言は下記。
1 生産力増強や金儲けではなく、国民の質の向上に結びつく。
2 民間の製品の代替品ではない。
3 安定した雇用創出を継続的に保証する。
これらの特徴を備えるものとしては、芸術・観光インフラ・教育・医療・介護・健康などがあろう。(152)
さらに小野さんは乗数効果を重要視していない。10万円をばらまいたところで、
あるのは10万円を分け合った各生産者が消費者としてお店に行く効果、つまり通常の乗数効果だけだ。10万円を一人で受け取ろうが数人で分け合おうが、また、働いてもらおうが一時金で受け取ろうが、合計金額が同じである以上、乗数効果を通した消費拡大の合計も同じはずだ(175)
となる。
さらに小野さんは乗数効果の存在自体を疑っている。
保有している金融資産と将来の所得の見通しで人々の購買力は決まる。現在、日本では所得は変わらず、金融資産の保有額が伸びている。つまり資産もっている状況でにもかかわらず消費が伸びないのだから、これ以上資産を延ばすようなことをしてもだめ。
しかも、乗数効果の計算自体、現実にありそうな貯蓄率を使うと非現実的なほど大きくでてくる。つまり貯蓄率がゼロだったりすれば、回ってきたお金は全て消費に回されるから景気への刺激が大きいとなるはず。
でも現実の政府の数字は、0.2と低い。
つまりあんまり乗数効果を論じても意味ないようです。
ちょっと勘違いしていた小野さんへの認識
小野さんは、菅直人のブレーでもあり、増税派でもあるから、「大きな政府」よりに思えて、保護主義的みたなのが、関税撤廃を主張する自由貿易を推しているし、人為的な為替操作も市場を歪めるだけだけだというし、なかなかいい感じ。
関税撤廃については、まさにすべき。本書でも乳製品を例にとっているが、はっきりいって日本でチーズだとかバターとか高いですよ。
貿易の本義は生活を消費者の生活を豊かにすることであるし、外国産の米だってぼくは欲しいわけ。それは安いからではなくて、料理の幅が広がるからですよ。
小野さんは、生産者が苦境に陥るならば補助金で補填すればいいという。このあたりが現実的な解でしょう。
成熟経済は成長経済とは違い、内需が停滞して、企業の稼ぐ場が失われてしまう。安易に不満を回避しようとすると、外には保護主義、内にはばらまき財政に向かう。自体は悪化するばかりだ。解決には、政府がきちんと公的サービスを増やし、消費者もみずから内需を増やすしかない。(192)