2019/01/02

『薫香のカナピウム』感想

上田早夕里『薫香のカナピウム』文藝春秋


んーどうだろうねー。今回の作品はここからいろいろと発展していく前段階のものなのかな。いろいろと謎が残ったままだし。
今回の小説は短編でもあるし、いろいろと謎が残るものでもあるし、なんかもっと膨らませる余地を残しているから、もしかしたら長編もありうるのかな。
人工的な環境で生きられるように人工的に人間の身体をいじくり、人類を存続させるというのは、まあナウシカと同じ。
そこで、上田氏と宮崎駿の物語で異なるのは、暴力の描き方。宮崎の場合、暴力を否定的に書きながらもそれに魅かれているところがある。上田氏の場合は、暴力を冷たい感じで単純に否定している。これは『華竜の宮』でもそうで、人間の醜さを認めつつも美しさを信じる感じで、どこか白けてしまったところがあって、今回の小説も同様だった。
ただアイデアは非常に面白くて、例えば「匂い」の描写がこの小説のよいところ。人間を含め多くの動物が嗅覚で、危険やら安全やらを判断している。猫なんか見ていると、まず新しい何かに出会うと匂いを嗅ぎまくるわけで、キャットフードをいつものと違うものをあげれば、まず匂いだ。それに猫は匂いで安心を得たりもしていて、このあたり猫のかわいらしいところ。そんな匂いを一つのテーマとして掲げていて、それは成功しているかなと思う。
貴志祐介の『新世界より』なんかも「歴史後」の世界を描いていて超能力をもった人間の社会はどうなるのかを突き詰めて思考実験をしていて、そこでは性や暴力などを正面から考察されていた。『薫香』は、まあ短編だからしかたがないけど、そのあたりもっと突き詰めたものがほしかったが、次回に期待できるかと思う。

0 件のコメント:

コメントを投稿