2017/12/06

『ポパーとウィトゲンシュタインとのあいだで交わされた世上名高い一〇分間の大激論の謎』 デヴィッド エドモンズ ジョン エーディナウ/二木 麻里 訳 ちくま学芸文庫

ウィトゲンシュタインとポパーの火かき棒事件を中心にしたノンフィクション。このケンブリッジ大学での起こった事件を焦点に合わせて、友人知人、家族、学生などの証言や、ウィーンの文化的特質、ユダヤ人、戦争などを織り交ぜながら書かれている。
ウィトゲンシュタインとポパーの哲学における相違はあまり言及がなく、単なる群像劇になってしまっている。一つ一つのエピソードは面白い。ウィトゲンシュタインは探偵小説が好きだったとか、ウィーンを故郷にもつポパーは妻の死後社交的になったとか、両者ともに短気だったとか。
面白いところもあるが、結局、火かき棒事件自体が大した事件でもなんでもないのに、ウィトゲンシュタインとポパーの諍いが収斂した場と描かれていて、んーそんなもんかなーと首をかしげる。第一、火かき棒事件の時に話された内容自体がそれほど多くないようだ。哲学の問題はもはやないと主張するウィトゲンシュタインに、そんなわけあるか、政治的なコミットメントなど重大なことがあるじゃないかというポパーとの中途半端な議論があっただけ。だからなんだというところで別段「エニグマ」でも「パズル」でもないだろう。
哲学の議論がほとんどないため物足りない。
ただウィトゲンシュタインとポパーがどんな時代を生きていたのかがわかる。でもウィーンのコスモポリタンあふれる雰囲気の中で彼等の思想にどんな影響があったのかは中途半端。せっかくウィーンやユダヤ人の問題を詳細に書いているのだから、それと関連して彼等の哲学にどんな影響を及ぼしてきたのかをもっと書くべきだ。この本ではウィトゲンシュタインやポパーの哲学に関する記述は少ない。故になぜ彼等の思想の対立が重要なのか、後世の哲学者にどんな影響を及ぼしたのかがあいまいなまま。
果たしてウィトゲンシュタインやポパーに興味がない人に、この内容は面白いのか。興味がある人にとって物足りない、興味ない人には不親切な内容だ。
正直に言って、BBCのドキュメンタリーの方を見るだけで十分で、本で読む必要はないと思う。


まあ実りがなかったわけではない。本書を読んで、今一度学生以来遠ざかっていた論理学をもう一度勉強しなおしてみようと思った。そしてレモンの『論理学初歩』と金子先生の『記号論理学入門』を買ってしまった。10年以上ぶりの復習となる。

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