2022/02/08

『サラ金の歴史 消費者金融と日本の社会』 小島傭平 中公新書

高利貸しは無担保で金を貸す、だから友人、知人のネットワークを使う。「使い」や「走り」という。
戦前では金を貸すことは、副業のひとつと認識されていたようで、興味深い。現代と同じようにサラリーマンは上司の機嫌をとるよりも、金をかして利息をとって、所得を増やせと。
サラ金の源流が、日本昼夜銀行の「サラリーマン金融」とのことで、安田系の日本昼夜銀行は、昼だけでなく夜も取引できるサービスを行っており、昼間ではなく夜に現金の出し入れをする必要がある商人や飲食店との取引が多かった。恐慌を乗り切った銀行は遊んでいるカネをサラリーマンに貸し付けていく。ただし条件が厳しかった。25歳以上、東京周辺で2年以上の勤務であり退職しない見込みがあること。そして連ら五保証人で、雇い主や上司、または25歳以上の返済能力がある親戚、二名以上ということ。なかなかだな。

森田国七は神戸製鋼に就職し、上司の許可をとりサラリーマン金融をする。
田辺信夫早稲大学の政経学部在学中に学徒出陣。その後貿易会社に勤務。その間に節約を徹底し、300万円をためる。(66)1960年、日本クレジットセンターを設立。彼は団地金を誕生させる。団地の主婦層向けの無担保の小口貸付をしていく。「現金の出前」というキャッチコピーで、電話一本ですぐに月賦をくめるという便利さ。
そういえば、ミシンも月賦で購入できることで、広まったよな。こっちは戦前だけど。
団地金融では、無担保だから焦げ付いちゃうことも多いようだが、そこは営業マンの経験によってもカバーされていた。そして何より当時の団地マダムの見栄もある。当時は団地に住むことはステータスであり、入居審査は厳しかった。それ一定の収入以上の家族が住んでいることであり、さらにだからこそ、おいそれと返済を滞るような自体にまでいかないという算段。さっすがー。
武富士を創業した武井保雄は「靴の並べ方、洗濯物の干し方」をよく観察していたという。これも興味深い。人間というのは、こういった細部にその人間の育ちや性格、所得や生活スタイルがでてくる。左翼をやっているとこういった靴の並べ方や洗濯物の干し方だけでなく、歩き方やしゃべり方について無頓着なっていく。というのもこういうのは差別に繋がると考えるからだ。
実際、差別であることは間違いない。人の生活様式でその人の尊厳を大小を決めようと言いうのだから。しかし、現実では、このような生活様式が人間の生い立ちやらを無言の説得力でアピールしていく。

サラリーマン金融は、高度成長期においては安定した商売だったようだ。やはりある程度の審査もあるし、あくまでもサラリーマンへの貸付であった。不景気で中小企業が債務不履行でもサラリーマン金融は安定していたという。(99)
サラリーマン金融では「明日の米を買う金を絶対に貸すな」と、レイクの創業者浜田武雄は言っていた。
おもしろい話が載っていて、
「生活費が足りない、サラリーをもらってなおかつ苦しい人は、生活のどこかに欠陥があるからですよ。そんな人に貸せばコゲつくだけです。部下に飲ませる金がほしいとか、つきあい、レジャー資金を求めてくる人は、概して仕事熱心。バイタリティーもあって必ず返済します。」(105) 
「サラリーマンにとって酒、マージャン、デートなどに使う金は健全資金なんです。借金して遊ぶくらいのサラリーマンでなけりゃ、出世しませんよ。だから、うちの会社は正々堂々と遊ぶお金を、だれにでも、どうぞお使いくださいといって貸すんです」(105)
この人事評価は時代を感じるが、しかしどこかいい線をいっている気がする。ただこれは当時の会社における出世の仕方ともコンビになっているようだ。
ただし、飲みにもいかない、とか付き合いが悪い人間は出世コースから外れがちなのは、この人間界ではある程度い方がない。そもそも仕事とは多くの場合対人的なのだから、無口でコミュ力が低い場合、仕方がない。仕事ができる、というのは多義的なのだから。
しかし時代が進み、貸付基準も緩くなっていく。返済能力ありと見極めた人にだけでなく、裾野を広げていき、サラ金がセイフティネットの役割に変じていく。(152)生活や事業に行き詰まった人に貸していく。とはいってもリスクを回避する術が必要となる。それはブラックリストの共有と団体信用生命保険の導入だった。(153)
団信なんかは「モラル・ハザード」を起こすもとにもなっていく。わざと放火したり自動車事故を起こしたり。さらには顧客を自殺させることが合理的な選択になっていくこともある。
知らなかったが過払い金の法律的救済は1960年後半にはすでに認められていたということだ。
債権回収が重要な仕事であるが、かなりな感情労働であることは想像に難くない。債務者に同情すれば「そんなことくらいで落ち込むようなやつに、金貸しは無理だろうな」とか、従業員も女房家族をだしに仕事に慢心することを求められていく。この多重構造はすごい。(205)
金利引き下げは、債務者にとっていい話のように思えるが、実はそう簡単なもんではなく、金地引き下げは金融業の利益を減らしていく。そうなれば焦げ付かない人を選んで貸していく。そうすると闇金へと流れていく。何じゃこりゃ。まさにセイフティネットとなってきている。
蛇足ながら知らなかったが宇都宮健児はサラ金問題に首を突っ込んでいたのか。

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