2022/11/04

『なりすまし――正気と狂気を揺るがす、精神病院潜入実験』 スザンナ・キャラハン/宮﨑真紀約 亜紀書房

とりあえず精神病患者の扱われ方が、かつて酷かった。少しづつであるが、それも改善されてきた。日進月歩といった感じ。精神病に対する考え方も変わってきたり。
フロイトやレイン、フーコーといった狂気を扱ってきた者たたちにより、社会逸脱者の定義があいまいになり、狂気と正気の境界線がなくなっていく。これは逆説的でもある。フーコーらは狂気の定義が時代で異なることを示している。フロイトも狂気を非常に大きな域で考えているっぽい。そのためある意味あらゆる人間が狂気をもっている、精神病者であるといえ、だからみんなあんまり精神病を蔑むなという主張になるのだが、この無定義が精神病や精神疾患を無尽蔵に産出していくことにもなっている。
精神医学の歴史で、フロイトのような精神分析が席巻した時代があり、しかしそれはあまりにも恣意的、だからもっと解剖学的、生理学的な原因を求めていく。そりゃそうだろう。
しかし、知らなかった、このローゼンハン実験の影響で精神分析傾向の強いDSM-IIの改訂になった。それを主導したのがロバート・スピッツァー。ローゼンハン実験が広く認知されることで、精神医学の診断基準というものを統一行かざるを得ない状況なってきたという。診断基準が出来上がった。同じ患者を違う医師が診ても同じ診断をくだせるように標準化した。これがアメリカでできたというのも興味深い。DSM-IIIのような統計的手法でもって標準化されるというのはアメリカ的であってヨーロッパ的でないのかもしれない。
DSM-5への批判。正常な人に精神障害ありと診断かも。自閉症、ADD、双極性障害など。そして精神障害の診断を受けたものは、無用な薬の常習者になっていく。こう批判したのDSM-IVの責任者アレン・フランセスというのもいい。ADHDの診断数も年々増えていったそうだし。
SCIDというDSMのための選択式臨床面接を著者が受けるところがなんとも。(283)。結局、この面接によって診断された統合失調感情障害、もしくは東郷失調様障害という診断は間違っている。精神医学が混乱しているのはたしかなようだ。事実、薬がきかない症例はけっこうあるという。であれば、そのような症状は著者と同じ神経系の病気だったのかも。
ローゼンハン実験のデータは正確なものではなかった。というか捏造されたものであった。残念なのが、結局著者はローゼンハン実験の全貌を解明にいたることができなかったこと。というか捏造されているのだから、無理もないか。
そういえば最近内向的な人をHSP(Highly sensitive person)とかいうカテゴリーが爆誕していた。なんでもありだなと思った次第。

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