2022/06/15

『戦争と平和』 5 トルストイ/望月哲男訳 光文社古典新訳文庫

イヴィロンの生神女とは。ボロジノ会戦の際にこのイコンを掲げて戦いの挑もうとしたとか、ロシア的なのか。

「『戦争とは神の掟に対する人間の自由の、この上なく困難な服従である』……『純朴さは、神への従順さを意味する。神から逃れることはできない。それ故に彼らは純朴である。彼らは語ることなく、ただひたすら行う。語られた言葉は銀であり、語られぬ言葉こそ金である。死を恐れている限り、人間は何一つ得ることができない。死を恐れぬ者は、全てを手にする。もしも苦しみがなければ、人間は人の限界に気付かず、自分自身を知ることもないだろう。……いや統一するんじゃない。いろんな思想を統一するなんて不可能だから、そうした思想をすべてすなげていくのだ―それこそが肝心だ! そう、つなぐべきだ、つなぐべきなんだ!」」(66)

ピエール、何度目かの証悟。
負傷者がロストフ家になだれ込んでくる。そしてモスクワから逃げるとき、ナターシャは家族の資産を置いていき、負傷者たちをいっしょに連れていくように父に言う。ナターシャ、なんともいいやつではないか。

「無数の教戒を擁するアジア風の町、聖なるモスク―!」(139)

ついにナポレオンがモスクワを手に入れる。しかし、略奪が横行し、その対策も効果なし。
ここでよくわわからないのが、なぜにナポレオンは一冬をモスクワで過ごさなかったのか。なぜモスクワをでてロシア軍討伐にでたのか。ここがよくわからない。
制御がきかないモスクワ市民、。それをおさえるためにラストプチンは生贄をさしだす。モスクワ陥落の原因とされたヴァレシチャーギン。彼を民衆の手によって処刑をさせる。そのかんにラストプチンは逃げる。当時から群衆というものがいかに愚かであったかが記されている。これはソクラテスから変わっていないようだ。

「住民をなだめる義務だ。他にもたくさんの犠牲者が死んでいったし、これからも死んでいくが、それはみな公共の福祉のためだ」(190)

なんともおそろしいことだな。いつの時代も「公共の福祉」を言い訳に、圧制や愚行が行われていく。為政者は「公共の福祉」といっておけばいいのだろう。そして民衆もその「公共の福祉」に従う。
大主教奇蹟者聖ニコライ教会。この教会はソ連時代に破壊されている。
モスクワの火事の原因は、やっぱりよくわからないと書いてある。当時は木造の建築物ばかりだったし、火事なんてしょっちゅうあったという。ただ、火事は空っぽの住居が増えれば、広がるのは必然と。そうだよね。しかし歴史家はその火事の原因をラストプチンやナポレオンやらに帰していく。馬鹿げていると。
ピエール、ナポレオン暗殺を計るも、計画倒れ。途中、火事で家に残された子供を救う。フランス人たち略奪中。でもフランス人はつかのま人間にもどろうやといって、ピエールに力をかしたり。
んで、潜伏先で一人のフランス兵の大尉と仲良くなる。酒を飲んだりして、自分の階級なんかも話したり。結局、ピエールは東洋風の美少女を助けるためにフランス兵を殴りお縄になる。
そこでさらにピエール、悟りへといたる。
あまりにロシア的な人間、プラトン・カラターエフと出会う。

「それはロシア的なもの、善良なもの、まろやかなものを体現した存在だった。最初の日の翌朝早朝、改めてこの隣人を見たときも、何となくまろやかだ、つまり丸っこいという第一印象はいささかも変わらなかった。……全身が丸々していたし、頭も完全に丸く、背中も胸も肩も、さらにはまるでいるも何かを抱こうとしているかのようなその両腕も、すべて丸っこかった。気持ちの良い笑顔も、大きな茶色の優しい目も、また丸々としてたのである。(386)

このあとさらにプラトンの描写がつづくが、とりあえず素朴で、善良で、DIYができて、規則正しい何かをもっているという、なんとなくおわかりだろう、現代人ももつ田舎にいるなんでも自分でやってしまうオヤジみたいなものだ。
そこにロシア的な何かを、というかインテリからしたら何でもできて、それでいて苦悩を知らず、そして素朴さにたいする憧れだ。
マリアはナターシャのところへ兄アンドレイを見舞いに来る。しかし、すでにアンドレイは悟りをめいいっぱい開いてしまった後で、すべてを諦めている存在になっていた。すべてが煩わしく、すべてが過去となってしまている。生を諦め、死を末だけの存在となっている。

「あの人はどこへ行ってしまったの? 今どこにいるの?……」(422)

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